4月から慢性期病院で非常勤となり、訪問診療なども含めて担当するようになった。
そこで痛感したのは、急性期病院との勝手の違いだ。研修医時代は上級医やメディカルスタッフが代わりにやってくれてノータッチだった「事務手続き」や「制度の壁」にぶつかり、現在勉強中である。
本記事は、私自身の思考整理と備忘録だ。理解が変わるごとに更新していく。 メインはあくまで「高齢者医療」。精神科や、事故・難病などで寝たきりの患者さんについては説明が煩雑になるため、ここでは割愛する。
対象読者は「私と同じ若手勤務医」

厳密な点数計算や法律の話はスルーする。まずは「どこが重要か」の全体像をざっくり掴むための記事だ。
もともとの私の理解レベルは以下の通り。似たような感覚の人は、きっと参考になるはずだ。
- DPC?:よくわからない。とりあえず病名をちゃんと付けろってこと?
- 地域包括ケア病棟?:何のためにあるのか謎。でも事務長からは「早く転棟してほしい」と注意喚起される。
- 退院支援?:急性期を出た後、ケアマネージャーさんが色々やってくれてるみたいだけど、具体的にどう地域に戻るのかは不明。
- 書類地獄?:医療保険と介護保険がごちゃまぜ。主治医意見書とか色々求められて正直面倒。
- 福祉アレルギー?:学生時代から公衆衛生は大嫌い。感染症は勉強し直したけど、福祉系サイトは開くといつの間にか寝ている。
1. 制度全体の「力学」を知る

医療制度は、国と医療者による壮大なせめぎ合いだ。
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国(ルールメーカー)
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診療報酬という「アメとムチ」で、医療者の行動をコントロールしたい。
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隙を突く医療者を防ぐため細かなルールを乱立。ただし、まともな病院が潰れては困るため「生かさず殺さず」の塩梅で調整。
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医療者(プレイヤー)
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国に対して「ルール守ってますよ」とアピール(書類作成・病名入力など)しないとタダ働きに。
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固定費が巨大なため、適当にやると即赤字。ゆえに経営陣は現場の医師に口うるさく言わざるを得ない。
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国はどう医療者を誘導しているのか?

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「病院は治療の場。元気な人は地域へ」
- 入院期間に制限をかけ、病棟に「軽症患者」が居座ると病院にペナルティ。
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「医療費は抑えたい。でも治療はしてね」
- 1日定額制(まるめ)を導入し、検査や薬を出すほど病院が損する構造へ。ただし急性期は出来高とのハイブリッドにして治療の質を担保。
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「タスクシフトしろ、ITを使え」
- 医師の仕事を他職種へ。効率化している施設を高く評価。
これを踏まえた私のスタンス

各法人に経営の事情があるのは当然だ。勤務医として、自分の給与が診療報酬から出ている以上、経営を全く考えない医師は組織内での優先順位が下がるだろう。
しかし、患者さんに不利益となる選択を強制してくる職場では働けない。
まずは全体のお金の流れをざっくり理解する。 その上で「効果が同じなら安い薬を選ぶ」など、患者さんに不利益を与えない範囲で経営に協力していく。このスタンスで今後書いていく。
2. お金の出どころは「2つの財布」

医療と介護は、全くルールの違う別世界だ。保険診療と自由診療くらい違うと言っても過言ではない。
| 分野 | お金の支払い対象(トリガー) | 特徴と注意点 |
|---|---|---|
| 医療分野 | 疾患名 | 病名をつけないとお金が出ない。急性期入院や一般外来はここ。 |
| 介護分野 | 患者さん(の状態) | 患者さんの状態を評価し「枠」を作る。そのために主治医意見書が必須。早く書かないと患者さんがサービスを受けられない。 |
介護施設(介護医療院など)では、患者さん一人あたりの予算枠(定額)がシビアに決まっている。ここで高価な薬をバンバン出すと病院は赤字に転落する。積極的な治療が必要なら、医療分野の病院へ移動させなければならない。
3. 病棟・施設という「パズル」の全貌
勤務先が3次救急なら医療分野だけで完結するが、2次救急や慢性期病院になると、階を1つ昇るだけで介護分野が絡み、ルールが一変する。
施設は大きく3つに分けられる。
① 治療する場所

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急性期病棟(医療・14日まで):やばい病気を治す。若手医師に一番馴染みのある場所。
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リハビリ病棟(医療・数ヶ月):機能回復。脳梗塞後のリハビリなど。
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外来・訪問診療(医療・単発):通えるなら外来、通えないが家で暮らせるなら訪問。老人ホームへの訪問診療も「医療分野」の扱い。
② 地域へ戻るための待機場所(バッファー)

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地域包括ケア病棟(医療・最大60日):急性期を過ぎたが、次が決まっていない、または自宅退院に不安が残る場合の待機場所。
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介護老人保健施設 / 老健(介護・数ヶ月):介護分野のバッファー。リハビリ病棟の適応外(寝たきりで筋力低下など)の高齢者が、特養の空きを待つ間などに入る。
③ 終のすみか

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療養病棟(医療):人工呼吸器など、高度な医療が必要。医師常在。
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介護医療院(介護):医療処置はそこそこだが、看取りを含めた医学的管理が必要。医師常在。
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介護老人福祉施設 / 特養(介護):常時介護が必要だが、高度な医療は不要。常勤医師はいるが24時間体制ではない。
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サ高住・グループホーム(介護):そこそこ元気な人。医師は不在で「家」に近い。必要なら訪問診療や外来受診を利用する。
病院ごとのパズル構成

一口に病院といっても、これらの組み合わせによりパズルのように構成されている。
3次救急病院
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ほぼ急性期病棟のみのため基本的に14日で患者さんを別の病院へ転院させる必要がある。
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リハビリが必要なら専門のリハビリテーション病院へ、症状が落ち着いたがまだ家に帰せないなら地域包括ケア病棟などがある2次救急病院へ、病院で診続ける必要があるなら療養病棟がある病院へ。
2次救急病院
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急性期病棟、地域包括ケア病棟、療養病棟などのミックスになっていることが多い。
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期間により適切な転棟を意識。医療があまり必要のない患者さんなら、介護医療院のある慢性期病院への転院や特養への移動が必要。
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特養なども同じグループ内にあったりする。
慢性期病院
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療養病棟(医療)、介護医療院(介護)がミックスされていることが多い。
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お金の出所の留意が必要。
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特に介護分野の定額制は非常にシビアなため、薬剤の数十円単位の違いなんかも意識する必要がある。
病院のホームページに病棟・病床の構成がまとめられているので、まずは自分が勤めている病院がどうなっているか調べてみてほしい。
4. 定額制(DPC、まるめ)の罠

「1日1万円しか払わないから、診察、看護、介護、検査、処方を全部その中でやってね」
これが定額制の基本概念だ。
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急性期(DPC):疾患ごとに定額が決まる。カテーテルなど高度な治療は出来高払いなのでガンガンやってOK(ただし不適切とみなされれば審査で切られる)。
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慢性期・介護(まるめ):定額内でやりくりが必須。ガンガン治療をする場所ではない。
国はここに「ペナルティ」を設けて患者の移動を促す。
急性期に15日以上いれば報酬を下げ、療養病棟で「点滴などの処置が必要な重症者」の割合が規定を下回れば病棟全体の報酬を下げる。だからこそ、事務は必死になって転棟や退院を調整している。
5. 若手医師が最低限やるべき4つのアクション

細かいことは多いが、現場の医師として意識すべきは以下の2点に尽きる。
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終のすみかに落ち着くまでは、期限(日数)を意識して治療する。
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患者さんのケアレベルに応じ、適切な「終のすみか」を想定する。
そして、我々医師の対応が遅れるとすべてのボトルネックになるのが以下の業務だ。事務からお願いされたら、面倒がらずに(むしろ積極的に)対応しよう。
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病名をちゃんと付ける(お金をもらうため)
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期限を意識して転棟・転院(ペナルティ回避)
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主治医意見書を早く書く(介護サービス開始のため)
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急性期以外では、検査・薬剤費のコストを意識する(まるめによる赤字回避)
おわりに

全体の概要を示したが、まだまだ勉強中のことが多い。
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他職種の人たちが各フィールドを何をしていて、その仕事をスムーズにするために医師として何ができるか? また、何をお願いできるか?
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慢性期における各種施設の使い分け。具体的にどれぐらいの重症度だったら療養病棟で、どこからが介護医療院なのか?
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患者さんが具体的に医療費・介護費をいくら負担しているのか?
理解が深まり次第追記していく予定だ。