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リスク管理:「急病・事故への備え」。スマホの緊急情報とデジタル遺産の管理

​私は数ヶ月前まで大型バイクを乗り回していた。

過去には2度単独事故を起こしており、自分の隣を火花を上げながら滑っていくバイクを横目に、気付いたら交差点の真ん中で空を見上げていたこともある。

​また医師として、急病や事故で救急搬送されてくる患者さんを多く診てきた。その中には、予期せぬ事態に見舞われた若年者も当然含まれる。

​本記事では、医師の視点から「万が一の事態」にどのように備えるべきか、実際に私が実践している方法を紹介する。


​1. スマホの「緊急情報」を設定する#

意思の疎通が取れない時、自分の情報を医療従事者にどう伝えるか。 私が使用しているGalaxyや、調べたところiPhoneにも、ロックを解除せずに緊急連絡先や医療情報を表示する機能がある。

具体的な設定方法はネット上に多いため割愛するが、私のスマホ(Galaxy)の場合、ロック画面で「緊急通報」をタップすれば、登録した「緊急連絡先」へのコールや「医療情報」の閲覧が可能になっている。

逆に言えばロックを解除せずとも誰でも見える情報であり、プライバシーとのバランスが重要だ。

ここでは医師の視点から、「現場でどのような情報があるとありがたいか」を記載する。

a. 緊急連絡先#

これは必須。 輸血や侵襲的な処置の同意など、本人の代わりに意思決定をする(あるいは本人の意思を知っている)キーパーソンの存在は不可欠だ。最悪これさえ登録してくれていたら、名前、年齢、基礎疾患などの情報を聞くことができる。

連絡先に電話する際、名前(カタカナ可)が分かっていると、「〇〇さんのご関係者ですか?」とスムーズに切り出せるためありがたい。

b. 大まかな年齢・生物学的性別#

プライバシーが気になる場合でも、20代、30代といった大まかな年代は知らせてほしい。年齢により各疾患の発生率(事前確率)が異なり、原因の絞り込みに必要となる。

また、生物学的性別も重要だ。女性にしかない疾患を考慮する必要があるためである。意識がない場合、エコーや外見から確認するが、確証を持てないケースもある。

  • 高齢女性の場合、特有の構造が萎縮しており判別しにくいことがある

  • 性転換手術をしている可能性を排除しきれない

  • 脊髄損傷や骨盤骨折の可能性が否定できない場合、脱衣が困難なことがある(躊躇なく衣服を裁断できる救急慣れした病院ばかりではない)

c. 既往歴・治療中の病気・かかりつけ医#

ここには以下の3点を記載してほしい。

  1. 過去の病気: 手術歴や癌など。目安として「半年以上治療していた病気」であれば記載する(1週間で治ったインフルエンザ等は不要)。

  2. 現在の病気・内服薬: 期間に関わらず「今後も診察予定があるもの(次回の予約がある等)」は記載する。

  3. かかりつけ病院: 特に直近で治療を受けた、あるいは定期通院している病院名。似た名称の病院もあるため、〇県〇市と付けてくれるとスムーズ。また、名前、生年月日は相手病院がカルテ検索に使う。プライバシーからどうしても記載したくない場合は、患者IDなどを、特に緊急連絡先も登録していない人は記入しておいてほしい。

病院には詳細なカルテ情報が保管されている。病院名さえ分かれば、電話一本で既往歴やアレルギー情報を一気に取得できる可能性がある(緊急時、病院間での個人情報照会は一般的に許容されている)。

d. アレルギー#

薬剤アレルギーがあれば必ず記載する。ただし、それが「真のアレルギー」かは慎重に区別してほしい。

  • 記載すべき例: 全身が真っ赤になり入院した、医師から「他院受診時は伝えるように」と指示されたレベル。

  • 注意点: 「少し気持ち悪くなった」程度で安易にアレルギーと記載すると、使用できる薬剤の選択肢が大きく狭まり、治療に不利益が生じる可能性がある。

e. その他(身体情報・特記事項)#

  • 身長・体重: 薬剤の投与量計算に使用する。見た目で推測はするが、数値があると助かる。

  • 重要な意思表示:

    • 臓器提供の意思

    • 宗教上の理由による輸血拒否など

    • 特定の人物との接触拒否(誰々とは断交しているため連絡しないでほしい等)

    • 行政関係(民生委員)や成年後見人の連絡先


2. 意思表示書・遺言書の準備(デジタル遺産)​#

これは医療機関ではなく、家族(あるいは相続人)に向けた情報だ。いわゆる「終活」にあたる。 情報は以下の2つのレベルに分けて管理している。

レベル1:いつ家族に見られてもいいもの#

主に事務的な手続きに必要な情報だ。

  • 労働契約・アポイントメント

    • 勤務先、バイト斡旋業者の連絡先

    • 無断欠席すると迷惑がかかる予定(面接、病院見学、学会など)

  • 債務(支払い)

    • クレジットカード会社と引き落とし口座

    • サブスクリプション(通信、光熱費、家賃、Netflixなど)

    • ローンの債権者情報(住宅、車、スマホの割賦)

    • 個人間の借金(食事の立て替え等も含む)

  • 債権(受取)

    • 未払い給与の債務者、振込先

    • 年払い済み保険料の還付など

    • 個人間の貸付金

  • 金融資産の所在

    • 保有している銀行、証券口座

    • 多額をチャージしている決済サービス

    • ※具体的な金額は不要、変動するため記載しない

レベル2:特定の場合のみ見られたいもの(非公開)#

  • 意思表示書(リビングウィル)

    • 臓器提供の有無

    • 延命治療の希望範囲

    • ※家族感情が優先される可能性があるため、「こだわりがあるので、私の意思に反することは望まない」等と書き添えるのも一案。

  • 遺言書

    • 遺産の扱い

    • 固定資産の処分(自由に処分できないものの指定、形見分け等)

    • 葬儀・埋葬の希望(生前契約があればその連絡先)

    • 家族へのメッセージ

管理方法:Googleドキュメント × 物理セキュリティ#

紙媒体は更新が面倒なため、私はGoogleドキュメントに保存している。「公開側」は家族に共有済みだが、「非公開側」には一工夫している。

  1. 非公開ドキュメントのURLをQRコード化する

  2. QRコードを自宅の特定の場所(家族に伝えてある)に置く

  3. ログインに必要なGoogleパスワードを紙に書き、別の場所に置く

なぜこの方法か?#

Googleパスワードは極めて重要だ。ネット上ではなく「物理的に保存」することで、ハッキング等のリスクを遮断できる。 (「〇〇医師の家のタンスの3段目にパスワードがある」と知ったところで、私が富豪でない限り泥棒は入らない)

また、QRコード(場所)とパスワード(鍵)を物理的に分割することで、空き巣などに見つかっても単体では意味をなさないようにしている。私は念のため、親と兄弟に分割して託している。

法的効力を確実に持たせたい重要な遺言書であれば、司法書士などの立会いのもと、公正証書として残すことを推奨する。


おわりに#

以上が、私が数年前から継続している備えだ。

今、私の身に何かが起きても、適切な治療を受けられる可能性を最大化し、残された家族が困らないようにしている。

リスク管理:「急病・事故への備え」。スマホの緊急情報とデジタル遺産の管理
https://freelance-dr-log.com/posts/life-risk-smartphone/
作者
S Nishi
公開日
2026-02-26
ライセンス
CC BY-NC-SA 4.0