はじめに
私はこの1年で20以上の病院で100回近くの勤務をこなしてきた。現在では初めての勤務先でも大して緊張することはないが、初勤務の時は右も左も分からず非常に不安な気持ちでいっぱいだった。
本記事は、はじめてバイトをする3年目専攻医や、フリーランスとなった医師へ向けてのガイドだ。
以下の3記事に分けて解説していく。
はじめてのスポットバイトガイド
- 医療面完全マニュアル:医療面での流れ、具体的な勤務内容
- 病院設備完全マニュアル:病院にどんな設備があるか
- パッキング・持ち物完全マニュアル:何を持っていく必要があるか
本記事では、最初の「医療面」について詳述する。
本記事でカバーする勤務先

カバーする勤務先
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様々な地域の寝当直
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認知症メインの精神科病院
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地方中規模病院の比較的ゆったりした救急
カバーしない勤務先
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都市部の大規模病院(現時点の私の経歴では十中八九採用されず、そもそも実力不足だと思っているため勤務歴なし)
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検診(現時点で経験数が少なめのため)
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美容(勤務歴なし)
医療面における勤務の実際
1. 最初の事務手続き・業務連絡など

当然のことながら第一印象は重要だ。 時間厳守。私は遅くとも1時間前には病院の徒歩圏内に到着しており、30分前には入るようにしている。
飛行機などを使う遠方の場合は天気情報を確認しつつ、可能なら前日には島内(北海道、本州、四国、九州)に入っておくことを推奨。少なくとも、1つ後の便にずれ込んでも問題ないスケジューリングが必要だ。
私自身は遅れたことはないが、遅れるリスクが発生した時点で契約書に記載の連絡先へ伝えること。
服装については以下記事で解説。どの病院でも基本マスクは必須のため着用しておく。
ちゃんとした印象を与える服装などについて
服に興味がないフリーランス医師の最適解。シワにならず、速乾で「ちゃんとして見える」ワードローブ構築術
当日病院へ入るルートは、たいてい契約書に記載されている。 開いている時間なら正面玄関から入り、受付で「本日当直担当の○○です」と伝えればよい。時間外なら時間外入口に警備員がいるため、そこから担当者へ繋いでもらう。
提出書類について

担当者からはまず書類の提出を求められる。
必要なのはマイナンバーカードの表裏と給与振込口座の情報だ。
私はこれら3つをA4用紙1枚に印刷し、5枚ほどリュックに常備している。 医師免許証や臨床研修修了証明書、保険医登録票などは、医療機関側が求人サイトからダウンロードできるため不要なことが多いが、稀に求められることがあるため、これら3つもいくらか印刷して常備しておくとよい。
印刷はセブンイレブンのかんたんnetprintを使えばスマホ1つで書類を用意できる。
10円の印刷をすると大量の小銭が出て面倒だが、セブンイレブンのみ電子マネー(nanaco)に対応しているため愛用している。
契約書に「医師免許証の原本」「1年以内の健康診断の結果」を持参するよう記載されていることがあるが、実際に求められたことはこれまでに一度もなく、苦労して持って行っても無駄になる可能性が高い。万全を期すなら事前に問い合わせておくといいだろう。
設備・ルールの確認

書類を渡すと、当直室かナースステーションに案内される。 その最中に以下の項目を確認しておく。
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病院の設備(CT、血液ガス、血液検査など)
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求人募集に書いてある場合は確実にある。記載がない場合は漏れの可能性もあるので念のため確認。
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夜間にどの検査を使えるのか。
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使える場合、技師の呼び出しが必要か。呼び出しから到着まで何分くらいかかるか。
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救急対応
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救急病院でなくとも、かかりつけ患者さんや付属施設の患者さんの受け入れが必要なことがある。
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救急病院なら、どれくらいの積極性で受け入れればいいか(病院によってスタンスが異なる)。もちろん、設備情報を踏まえたうえで自分が受け入れ可能な範囲であることが前提。
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救急隊からの連絡フロー(看護師や事務当直が先に対応してから繋がるのか、直接コールがあるのか。直接コールの場合は受け入れ前に看護師などへの連絡が必要か)。
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救急車はどこに来るのか。
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病棟対応
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回診義務の有無。
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精神科病院だと全病棟回診が必要なことが多い。身体拘束中の患者さんについては、全員分の特定書類への記載が必要。
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その他
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検食があるならどこで食べるか、検食簿がどこにあるのか。
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当直日誌がどこにあるのか。
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帰宅時の引継ぎ手順。
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ナースステーションに案内される場合、詳細は看護師に聞くよう言われることが多い。逆に当直室直行だと、担当者が詳しく答えてくれる印象。
慣れるまでは網羅的に聞くのは大変なので、大まかに以下の思考回路を持っておく。
「どんな設備がある?」→「その設備で緊急時にどう対応する?」→「緊急でないが絶対にやるべき仕事は?」
精神科病院の回診などは、病院側も忘れられると困るため詳細に説明してくれる。最悪、何か起こった時の対応手順さえ確認できれば上々だ。
カルテ使用法の確認

たいていはこの前後にカルテ使用法の説明がある。
電子カルテの場合
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ログインID、パスワードは必ずメモや写真で控えておく。
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可能なら、実際にログインできるかその場で確認させてもらう(ログインできないと非常に面倒なことになる)。
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医師にしかできない操作の確認が最優先。 それ以外は看護師などに聞けば教えてくれる。具体的には以下のオーダー。
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検査
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注射
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処方
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この操作はここで聞かないと誰も知らないことが多く、後で電子カルテマニュアルとにらめっこすることになる。にらめっこする時間があるならマシだが、電子カルテ導入病院だとオーダーが出ないと施行自体ができないこともあり、緊急時に詰む。
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余裕があれば以下も確認しておく。
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記事の記載法(指示簿などの記載法が分からなければ全部ここに記載でいい)
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過去記事、血液検査、画像検査、処方歴の閲覧方法
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紙カルテの場合
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スポットバイトで初めて紙カルテに触れた時は緊張したが、正直なところ一番使いやすい。
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オーダーは紙に書けばいいし、看護師が熟知しているため詰むことがない。
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噂通りカルテは基本的に解読困難で、看護師にも読めないことが多いが、それは記載した側の責任だと考えている。(私自身の字もいつの間にか象形文字化していたが、ちゃんと伝えたい部分はできるだけキレイに書くよう心掛けている)。
病院内の地理の把握

病院を丁寧に案内してくれることもあるが、ほとんどの病院は増改築を繰り返しており迷宮だ。覚えようとするのは徒労である(ちなみに私は方向音痴だ)。 優先して覚えるべきは以下の2点のみ。
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どうやって1階に降りるか
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1階のどこに救急車が来るか
次点は当直室の位置だ。 それ以外は聞けば教えてくれるし、回診の場所が分からなければ最悪誰かに案内を頼めばいい。
2. 回診・病棟対応

当直室に入ったら、まずは着替えておく。 病棟に行った瞬間に吐血や嘔吐の対応をするかもしれないため、汚れてもいい服(スクラブなど)でいたほうがいい。聴診器やペンライトなど、最低限必要なものもスクラブのポケットに入れておく。
初勤務の時は、基本的に一番手近な病棟のナースステーションに行き、挨拶をしておく。
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急変しそうな患者さんがいるかを確認。
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その患者さんが急変したときの対応方針(DNARか、救急対応・搬送が必要か、家族情報など)を確認しておく。
回診といっても、数十から数百人の全患者さんを把握するのは不可能だ。研修医時代の担当患者回診のような詳細確認は不要であり、上記のように病棟単位のざっくりとした確認でいい。
発熱など問題がある時は相談されるので、通常の内科対応をすればいい。 基本的には、対応した患者さんのみカルテに記載しておく。処方などは原則「主治医が次に来るまで」とし、以降は主治医確認とする旨を記載しておく。
精神科病院の特殊事情(拘束患者の診察)
- 精神科病院のみ、身体拘束中の患者さんの診察業務がある。該当する患者さんを1人ずつ回診し、拘束が妥当なのかを確認する。
- 看護師が慣れているので、1人ずつ状況(なぜ拘束となっているか、1日のどのタイミングで拘束を外しているか、拘束による表皮剥離などの問題がないか)を説明してくれる。
- 正直なところ、精神保健指定医も持たないスポット医の判断で拘束解除は困難だ。仮に明らかにダメな拘束をしている病院が存在したとしても、スポット医のような外部の人間を内部に入れないはずなので、単に話を聞いて確認するだけになるだろう。
- 拘束中の患者さんについては1人ずつ記載が必要になる。カルテ記載よりも、電子カルテの専用フォームから入力することが多い。最初の説明時に指示があるはずなので、それに従う。漏れがあれば看護師から電話がかかってくるはずだ。
3. 緊急対応

基本的には研修医時代と同じだ。 検査ができなかったり、頻繁に使う薬剤がなかったりと困る場面もあるだろうが、あるもので対応するしかない。
リスク管理と記録の徹底
何より重要なのは、リスク管理のための患者さんやその家族への説明だ。 病棟の患者さんで、転院を検討したり家族を呼び出して説明するレベルの事態が起きれば、主治医に連絡して判断を仰いだほうがいい。
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主治医から指示された内容はカルテに必ず記載する(何時にこのように報告し、主治医からはこう指示された等)。
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仮に主治医に連絡がつかなかった場合も記載する(何時に連絡を試みたが繋がらなかった、いついつ再度連絡する予定等)。
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患者さん本人や家族に説明した内容も詳細に記載しておく。可能なら看護師に立ち会ってもらったほうがいい(自分の身を守るためと、主治医が後で確認して分かるようにするため)。
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DNARの同意などを新たにとった場合は明記しておく。
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検査結果やそれに対するアセスメント・プラン(A/P)なども、病歴要約レベルでまとめておく。
4. その他(検食・日誌・引継ぎ)

ほとんどの病院では、検食簿と当直日誌の記載を求められる。
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検食簿:検食を食べてその評価を記載する用紙。他の医師の記載を参考にすれば、10秒程度で記載できるはずだ。
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当直日誌:何もなければ「np(問題なし)」とサインのみ。他の医師の記載を参考に。対応があった場合は、患者名と概要のみをざっくり記載する。
勤務終了時の対応
勤務が終了すると、そのまま帰る場合と引継ぎが必要な場合がある。
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週明けの場合:医師が多くて正直誰に引き継ぎをしたらいいか分からない。そのため、主治医がカルテを見たらわかるように詳細に記載しておくこと。また、担当看護師に、主治医へ伝えるよう申し送りを頼んでおく。
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別の当直医に引き継ぐ場合:そもそも引継ぎ医師が見当たらないことがある。その場合は特に連絡がなければそのまま帰宅してよい。ホワイトボードなどがあればそこに書いておいてもいい。引継ぎ医師が見つかった場合は、急変しそうな患者さんなどをざっくりとプレゼンして帰宅する。
以上が、医療面のガイドだ。私が初勤務前に知りたかった情報をまとめた。参考になれば幸いだ。
はじめてのスポットバイトガイド