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【医師向け】親の介護リスクと老後費用:シミュレーションのための前提条件と制度の基礎知識

親の介護リスクをカバーする#

原則として、親の老後のお金面については親の責任だ。

もちろん実務面(入院時に病院へ駆けつける、制度や生活面の手続きなど)は子どもが担うのが望ましいが、老後費用を全て子がカバーするのは現実的ではない。無理をして自分の老後が立ち行かなくなれば本末転倒だ。

とはいえ、自分が贅沢な暮らしをしながら、親にカツカツで生きろと突き放すのもまた極端だ。 では、実際にどれぐらいの費用が発生し、どうやってバランスを取るか。また、制度面(社会保険、税)はどうなっているのか。

まずは具体的なシナリオを想定する前に、本記事ではシナリオを作るための前提条件を考えていく。


対象読者#

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本記事は、医師を含めた比較的高所得者層を想定している。具体的には「年収1400万円」前後だ。理由は、高額療養費の最高区分に該当し、なおかつ所得税率の区分が計算しやすいため。

基礎控除約60万円、給与所得控除約200万円とすると、課税所得は1140万円となる。所得税率は900万円から33%となるため、その前提で計算を進める(その他配偶者控除などを想定すると面倒なので割愛する)。

なお、私はただの医療者であり税金や社会保険の専門家ではない。実際に自身の状況に適用するには、自分で調べるか税理士などへの相談をすすめる。


何歳まで生きるか?#

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一般的には、親には長生きしてほしいと言われる。

では、自分と妻の両親4人が110歳まで生存し、自分も80歳、子どもは50歳という場合はどうだろうか。嬉しいといえば嬉しいだろうが、やはり費用面での不安は大きい。

また、そもそもこのシナリオは現実に起き得るだろうか。生命表からその可能性を概算してみよう。

厚生労働省:令和6年簡易生命表の概況

仮に4人とも現在60歳だとする。2024年の厚労省データに基づくと、平均余命は男性24年、女性29年となる。平均値と中央値で乖離もあるだろうが、全員が90歳まで生存する確率は50%の4乗で5%と近似しても大きな差異はないだろう。

どこまでのリスクを想定するかは個人の価値観によるが、仮に90歳まで全員が生存していた場合、そこからの平均余命は男性4年、女性6年だ(2024年のデータ。30年後は伸びてる可能性あり)。

条件付き確率のため、単に0.25%とするのはかなり高く見積もりすぎている可能性が高く、おそらく0.1%などの世界になると思われる。

私のリスク感覚とすれば、ここまでカバーされれば充分であり、ひとまず「95歳まで全員生存」を長生きリスクのカバーシナリオとして想定する。


何歳まで健康か?#

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長生きしようと、本人が元気に動いて自立している場合は問題ない。多少の支援が必要だとしても、こちらが働いているうちは大した負担でもないだろう(自分が突然倒れて寝たきりになるリスクは別記事でまとめる予定)。

2022年のデータでは、健康寿命(健康余命ではない)は男性73歳、女性75歳だ。

厚生労働省:健康寿命の令和4年値について

健康寿命はやや主観的なデータだが、実際に要介護1以上の認定を受ける割合が増えてくるのも75歳ごろとなっている。

朝日生命:何歳から介護が必要になる? 介護が必要となる平均年齢と事前に行なっておきたい5つのこと

要介護1とは歩行などで介助が必要になってくるレベルであり、在宅であれば訪問介護あるいは老人ホームなどの施設を検討しはじめる段階だ。

95歳まで生存しているならかなり長く健康である可能性が高いが、バッファとして「全員が75歳で介護が必要になるシナリオ」を想定する。

以上を踏まえ、年齢別にまとめると以下のようになる。

  • 60歳:就業(5年間)
  • 65歳:退職し年金生活(10年間)
  • 75歳:要介護(20年間)
  • 95歳:死亡

収入と支出について#

以前他の記事でもまとめたが、年金受給者は収入が年金に置き換わり、また高齢者なので介護保険も加わる。

  • 収入:年金
  • 支出:医療保険、介護保険、税金

医師のための「超ざっくり」税金・社会保険ガイド

詳細は他サイトを参考にしていただくとして、ここではざっくりまとめる。

年金#

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  • 60歳ごろまで支払いだが、65歳までに変わりそうな雰囲気がある。

  • 65歳から受給。

  • 雑所得の対象となる。一定金額以上になると所得税・住民税がかかる。

  • 同様に一定金額以上だと、医療保険や介護保険の支払いが増えたり、上限キャップが上がったりする。

  • 受給を遅らせることで受給額を増やせる。何歳まで生存すれば有利かの試算などは他サイトを参考にしてほしい。本記事では遅らせず、通常通り65歳から受給する想定とする。

医療保険・介護保険#

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  • 死ぬまで払い続ける必要がある。

  • 75歳までは基本的に若年者と同じ。色々な選択肢があるが、75歳で全員「後期高齢者医療制度」に切り替わる。

  • 前年度の世帯年収により、保険料だけでなく医療費・介護費の上限も大きく変動する。

具体的な話は想定シナリオ内で触れるが、以下の方針が妥当だろう。

  1. 親が会社員で高年収だった場合、退職翌年は任意継続
  2. 収入が低くなれば国民健康保険
  3. 自分の社会保険の扶養には絶対に入れない
  4. 75歳以降は後期高齢者医療制度に強制的に切り替わるため気にする必要なし

税金#

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年金を含め一定額以上の収入があるなら、死ぬまで払い続ける必要がある。

  • 年金は雑所得の扱いとなる。

  • 一定額以上は所得税・住民税を払う必要あり。

  • 一定額以下は税法上の扶養に入れられ、親の医療費を援助したら医療費控除の対象となる。

  • 税金の扶養は社会保険の扶養と別物であり、税金だけ扶養に入れ、社会保険の扶養にはしないなどの「いいとこ取り」が可能。

  • 退職翌年は前年分の住民税支払いがあるため準備しておくこと。


次回記事の検討シナリオ#

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以上をふまえて、次回の記事では以下のシナリオで検討していく。

  • 60歳:就業(5年間)
  • 65歳:退職し年金生活(10年間)
  • 75歳:要介護(20年間)
  • 95歳:死亡

【両親のステータス設定】

  • 両親は4人とも国民年金、国民健康保険
  • 資産ゼロ
  • それぞれ夫婦での2人ぐらし(2世帯)
  • 老齢基礎年金は満額で7万円/月を想定
  • 医療・介護保険料などは自治体により異なるが、住民税非課税世帯に該当し7割減免として3万円/年を想定
  • 1世帯あたり実質所得:約13万円/月
【医師向け】親の介護リスクと老後費用:シミュレーションのための前提条件と制度の基礎知識
https://freelance-dr-log.com/posts/life-risk-care-1/
作者
S Nishi
公開日
2026-04-11
ライセンス
CC BY-NC-SA 4.0