医師が自分と家族にすすめる、ハードルの低い健康管理
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「健康にいいことは分かっているけど、全部やるのは無理じゃないか?」
生活指導を受けた患者さんが、聞き流しながら思っていそうなことです。
私は医師で、生活習慣病の患者さんに生活指導をすることもあります。
言うのは、適度な運動とバランスのとれた食事、禁煙、お酒はほどほどに、という模範解答です。
正直、それが簡単にできたら苦労はないよな、と思いながら話しています。
この記事では、自分がしていることと、家族に相談されたら答えることを書きます。模範解答とは少し違い、理想論ではなく、守りやすい最低限のものです。
長くなるので2本に分け、この記事では、タバコやワクチン、毎日の習慣など、自分でやることを書きます。
模範解答は、各医療機関が出している内容です。あくまで健康な人向けの参考で、通院中の方は主治医の意見が優先です。
結論
まずタバコをやめ、次に一回で終わるものを済ませ、毎日の習慣は体重計から始めてください。
回数が多いものほど続かないので、手間の少ない順に片付けるのがいちばんです。この順に話します。
まずタバコをやめる

タバコを吸っているなら、何よりも先にやめてください。
タバコが、肺がんや食道がんをはじめ、いろいろながんのリスクを上げるのは知っての通りです。
ただ、私がいちばん怖いと思っているのは、COPD(慢性閉塞性肺疾患)という病気です。タバコの煙などで肺が傷み、スポンジのようにスカスカになってしまいます。

怖いのは、ずっと苦しいことです。
例えば、全力疾走した後は苦しいですが、しばらく休めば元に戻ります。COPDになると酸素を取り込む力そのものが落ちるので、あの苦しさが、寝ている時も起きている時も続きます。
すぐに命を落とす病気ではありません。何年も、何十年もかけて少しずつ衰弱し、最後は苦しみながら亡くなっていきます。

肺がそうなってしまうと、正直できることは少なく、治療は酸素の吸入が中心になります。酸素ボンベを持ち歩き、鼻に管を付けている人を、街で見たことがあるかもしれません。
酸素を切らすわけにはいかないので、自由がききません。切れたら苦しくなる、かなりしんどい生活です。
個人的には、肺がんでぽっくりいくほうがまだましだと思うくらい、COPDだけは絶対に嫌です。

大学の病理学の授業では、いろいろな病気の人の臓器を見ました。
COPDの人の肺は、本当に穴だらけのスポンジのようで、衝撃を受けました。ネットで画像を検索すれば出てくるので、一度見てみるといいかもしれません。
禁煙すれば、肺の機能の落ち方はゆるやかになります。ただ、壊れてしまった肺は元に戻りませんし、がんのリスクも多少は残ります。やめるなら、早いうちのほうがいいです。
私は吸っていませんが、吸っている人は、禁煙外来に行ってでもやめたほうがいいです。まだ吸っていないなら、始めないのがいちばんです。
一回で終わるものは早めに

次に、一回で終わるものは、早めに済ませてしまうのがおすすめです。毎日続けなくていいので、いちばんハードルが低いからです。
具体的には、ワクチンとピロリ菌の検査、それにVIO脱毛が当てはまるので、1つずつ説明します。
帯状疱疹のワクチン

帯状疱疹のワクチンは、定期接種は65歳からですが、50歳から自費で受けられます。少し高いですが、私はお金を払ってでも、受けられる年齢になったら受けるつもりです。
帯状疱疹は、体に潜んでいたウイルスが神経に沿って動き、症状を起こす病気です。例えば肋骨に沿う神経は、背骨から胸へ回り込むように走っています。その神経に沿って皮膚に赤い発疹ができ、ピリピリと痛みます。

それ自体は、きちんと治療すれば治ります。怖いのは後遺症で、ウイルスが神経を傷つけ、痛みがずっと残ることがあります。運が悪いと、死ぬまで何十年も痛み続けます。
命に関わるというより、生活の満足度を大きく下げるので、避けたほうがいいと考えています。
肺炎球菌とインフルエンザ

肺炎球菌のワクチンは、65歳になったら定期接種で受けられます。今のワクチンは、1回で済みます。
肺炎の原因になる菌はたくさんありますが、そのうちのそこそこの割合をカバーしてくれるので、受けて損はありません。
インフルエンザのワクチンは毎年になりますが、高齢者なら受けておいていいと思います。
子宮頸がんのワクチン

女性なら、子宮頸がんのワクチンもおすすめです。子宮頸がんのほとんどは、HPVというウイルスが原因です。主に性交渉でうつるので、そういう年齢になる前に打っておくのがいいです。
HPVに感染してから発症するまでは、早くて10年ほどです。つまり、早いと20から30代で発症することになります。

学生時代、産婦人科を回っていた時に、私は実際にそういう患者さんをみました。
とても若い女性が、お父さんらしき男性と一緒に来ていました。指導医の先生に「センシティブな話だから、隣の部屋で様子を聞くだけにしておいて」と言われ、私は部屋を移りました。
しばらくすると、女性のすすり泣く声が聞こえてきました。男性は「治ると言ったじゃないか」と怒鳴り、先生は落ち着いた声で説明を続けていました。最後は、女性が泣きながらお父さんを止めていました。

女性は子宮頸がんの末期で、治療を試みても良くならなかったのだと思います。おそらく、余命を告げられたのでしょう。
ワクチンにも副作用はあります。それでも、あの声を聞いた身としては、自分に娘がいたら、20代や30代であんな状況になってほしくありません。ほかの人にも、そうなってほしくないです。

日本では、子宮頸がんのワクチンが数年前まで積極的には勧められていませんでしたが、今はまた勧められるようになりました。積極的に受けてほしいと思います。
ただ、ワクチンを打っても、すべてを防げるわけではないので、検診も大事です。検診の話は、次の記事に書きます。
ピロリ菌の検査

ピロリ菌は、胃に住みつく細菌です。胃がんのいちばん大きな原因で、ピロリ菌がいなければ、胃がんになるリスクは大きく下がります。
この検査も、一度で済みます。ピロリ菌がうつるのはほぼ子どもの間だけで、一度除菌すれば、またうつることもほとんどないからです。

もしいたら、除菌は早めにしておくのがおすすめです。いる間は、胃の粘膜がずっと傷つけられ続けるからです。除菌も、たいていは飲み薬を飲むだけです。

病院で検査するのが面倒なら、Amazonなどで買える、便で調べる検査キットをまず試してみるのがおすすめです。陽性なら、それをきっかけに、病院でしっかり調べてもらうべきです。
陰性なら、ひとまず安心していいと思います。ただ、あくまでキットなので過信はせず、どこかで一度は病院で検査したほうがいいのは確かです。一応の安心材料、くらいに考えておくのがちょうどいいです。
一度でもピロリ菌がいた人は、胃の状態によって胃カメラを受ける間隔が変わります。主治医の指示に従って、定期的に受けることになります。
VIO脱毛

VIO脱毛は、陰部やおしりのまわりの毛を脱毛することです。なぜそんなことを、と思うかもしれません。
いちばんの理由は、将来介護される側になった時のためです。脱毛しておけば、介護する人の負担を減らすことができます。

学生時代、看護師さんと一緒に実習をした時に、寝たきりの患者さんの便の処理や洗浄をしました。正直、毛に絡みついた便を洗うのは、すごく大変でした。
自分が介護される側になった時に、この負担はさせたくないと思いました。それに、これだけ大変だと、人の心理としてどうしても後回しにされやすく、清潔に保たれにくくなりそうです。

年を取ると、おしっこの通り道の感染症(尿路感染症)を起こす人がとても多く、救急にもよく運ばれてきます。
それを示すデータがあるわけではありませんが、脱毛して清潔に保ちやすくなれば、その頻度が減るのではないかと期待しています。
VIO脱毛は美容クリニックで受けるもので、白髪になるとレーザーは効かなくなります。やるなら、40〜50歳ごろのどこかで済ませてもいいと思います。やらなくても、もちろん構いません。
毎日の習慣は体重計から

最後に、毎日の習慣です。毎日続けないといけないものはいちばんハードルが高いので、すすめるものを絞ります。
私のいちばんのおすすめは、毎朝、体重計に乗ることです。同じ時間帯に量っていると、飲み会の後に増えた時に気づいて、自然と元に戻そうとします。毎日把握するようになると効果が高く、いちばん気軽にできます。

もう一つは、手洗いうがいです。手間のわりに効果が高く、いちばんコスパのいい習慣です。
この2つができるようになったら、塩分を気にする、間食を控える、運動をする、と少しずつ足していく流れがおすすめです。どれもいろいろな所で言われていることで、本当に大事なことです。
塩分なら減塩の醤油を使う、間食ならお菓子を家に置かない、といった手軽なものから試してみるといいです。
手間の少ない順に片付ける

ここまでをまとめると、健康のためにすることは、回数が多いほど続きにくくなります。なので、一回で済むものを先に終わらせ、毎日のことほど絞っています。
何を選ぶかは、長生きできるかと、生活の満足度が下がらないかです。COPDや帯状疱疹の後遺症のように、ずっと苦しむものを避けたいのもそのためです。
全部は無理でも、**まずはタバコをやめて、一回で終わるものを済ませてください。**若い人なら、ピロリ菌の検査キットと毎朝の体重計からで構いません。
定期の検診で何を受け、何をあえて受けないかは、次の記事に書きました。

